伯耆大山(東壁):槍ヶ峰ダイレクト尾根 2006.03.21

■春分の日(03/21)前後は、『残雪期の大山』が愉しい。今年は、飛び石、20日が業務の都合でどうしても休めず、19日にするか、それとも21日か?

 現地の直前気象情報では、19日は雨模様だが、20〜21日は晴れ!・・・・21日は、春特有の急激な変化がなければ久しぶりに好天が期待できそうだ。

 参加者は、8名。目標ルートは、今年の目標だった東壁:槍ヶ峰ダイレクト尾根。女性軍には申し訳ないが独自行動を取ってもらう。2名とも何回も雪山を経験しているので問題ない!との判断だ。ルートは、元谷〜宝珠尾根〜主稜線、天候が良好なら主稜線縦走とする。

 残る6名で奥大山に移動、健康の森登山口から鳥越峠を経て本沢に下降、キリン尾根末端から中間まで登り、トラバースしてダイレクト尾根と取り付く。尾根から槍尾根に抜ける。(現場判断で槍ヶ峰直登可能ならチャレンジしたいが・・・)天候良ければ、天狗ヶ峰経由で主稜縦走、悪ければそのまま下山・・・・さて思い通りに事が運ぶかどうか?


■参加者
 ・【槍ヶ峰ダイレクト尾根】:新谷T、新、岡村S、高木、赤澤、久保、以上6名
 ・【宝珠尾根〜ユートピア小屋】:新谷C、岡村M、以上2名


■コースタイム:【槍ヶ峰ダイレクト尾根】
 ・健康の森登山口(07:30)〜鳥越峠(08:30)〜本沢(09:10)〜キリン尾根取付(09:30)〜槍ヶ峰ダイレクト尾根(10:30)〜槍尾根(11:20)〜鉄柱(11:40)〜登山口(12:45)


■参考資料 伯耆大山東壁:壁沢右岸稜〜槍尾根 2003.03.16

キリン尾根〜槍ヶ峰ダイレクト尾根登行ルート概念図

 20日20時、車2台で出発する。夜半には下山キャンプ場駐車場到着。残念ながらこの駐車場は最近閉鎖され、あの快適なトイレは使えない。一部除雪されているので駐車場に入り、車内で仮眠。

 21日、3月になると夜明けの時刻が早くなる。6時、目を覚ますとすでに明るくなっている。天候は期待に反して曇天!、どうやら予報より早めに悪化しそうな気配である。独自行動を取る女性2名と簡単な打ち合わせをする・・・・稜線で視界がないようだったら迷わず!下山すること・・・少し心配だが、大丈夫だろう。

 奥大山に移動、環状道路は鍵掛峠までオープンされている。まだまだ残雪豊富で、すっかり除雪された道路の両側は1m近い雪壁である。健康の森登山口のヘヤピンカーブに駐車、支度をして07:30出発。前回は、トレールはなく直ぐワカン履いたが、今回は雪は締まり、しかもトレールがしっかり!適当なトレールを辿り歩を進める。勿論、ワカン不要だが、帰りのことを考慮、ちゃんと持参する・・・今日は軽装なのでピッチがあがり、1時間ほどで鳥越峠にあがる。

通い慣れた峠への樹林帯、森の主役は雪からブナ林へ!
峠に出ると烏ヶ山から振子山へけけて眺望が広がる・・・すっかり残雪季の様相だ

 振子山方面の山肌は、残雪季らしく白地のキャンパスに丁寧に描かれたような木々が存在を示しはじめている。今頃の山肌は、白地と焦げ茶の木々が拮抗・・・これから次第に白地が消失、無機質のような焦げ茶に新緑が芽生え山が息を吹き返す季節に入る。

 峠で小休止して左折、急登すればキリン峠の取付である。ここは前回ベースにしたところ、ここから尾根にはあがらず水平移動することにする。雪はしっかり締まっているのでアイゼンをつけた方が歩きやすく疲れない。

 高度を保ちながらトラバースすれば、尾根を回り込んでキリン沢を見下ろす尾根に出る。本沢までかなり急だが尾根筋を忠実に下降する。吹きだまりらしき箇所は堅雪の上にかなりの新雪があり、スリップしまいとすれば結構気を遣う。本沢が見えた地点から尻セード・・・一気に本沢に降り立った。少し登りキリン沢の出合あたりで休憩する。

峠から左折、キリン峠方面へ アイゼンを付けそのままトラバースして尾根を回り込む
トラバースも交え出来るだけ
本沢の上流へ!
正面は壁沢の右岸稜、左がキリン沢、右は本沢

 上流を見上げる。右は本沢、正面は2003年に取付いた尾根で、壁沢の右岸稜になる。左が、キリン沢で少し遡行すればキリン尾根が落ちている。壁沢右岸稜は中間の断崖で遮断されており、その断崖の上部が、槍ヶ峰に続く、『ダイレクト尾根』である。前回は、右岸稜に取り付き、断崖から左の沢に下降、キリン尾根の支稜に取り付き、そのままキリン尾根を詰めて槍尾根に抜けた。今回は、キリン尾根に取り付き、中間からダイレクト尾根に転進、そのまま尾根を詰めて槍尾根に出る予定、従って、丁度前回とクロスする形になる。

 小休止の後、腰を上げる。キリン沢にはいる。雪は良く締まり気持ちよくアイゼンが効く。見た目ほど緩やかでなく、進むほどに高度が上がる。やがて尾根末端、右手から取り付く・・・いきなり急登、だがステップが効くので急がず詰める。四つん這いになったり、2本足になったり、時にはツッアッケのみでよじ登れば綺麗に切れたナイフエッジに遭遇。右も左も切れているが樹林帯のせいかあまり高度感はない。

 ナイフエッジを通過、又、急登、抜けるとブッシュ帯も終わり一気に開ける。槍尾根はガスがかかりぼんやりしているが、お隣の右岸稜はよく見える。このまま詰めればキリン尾根になるので、右のカールをトラバースし支稜に出る。目的のダイレクト尾根はもう一つ右である。すでに右岸稜の断崖を越えているので、そのままもう1度、沢におり急なダイレクト尾根に取り付く。この沢の最上部である槍尾根にはいつも巨大な雪庇が出来る。もしトラバース中に崩壊すれば、かなりの確率で・・・・アウト!だが、今日は曇天で、低温・・・・しかし危険箇所はグズグズしないことだ。ほんの数分頑張れば危険地帯は突破できる。

正面のブッシュを避け右手から回り込んで取り付く。尾根下部は見た目よりはかなりな急登
ナイフエッジあたりで斜度が落ち一息つける。樹林帯なので高度感はない
樹林帯を抜けると、視界が一気に開ける。直上すればキリン尾根なので右トラバースする

 一気にトラバースしダイレクト尾根に直上する。ダイレクト尾根は東壁のど真ん中にある。まさに展望台!なので視界良ければ、迫力満点の東壁に会えるのだろうが・・・・。本沢の取り付きは遥か下方、右手の壁沢へは一気に切れ落ち、その向こうに本沢右俣尾根が東尾根に突き上げている。壁沢をつめて急な雪壁からダイレクトにこの尾根にあがれそうだが、かなり比高がありそうだ。

トラバースしてキリン尾根支稜へ 更にトラバースしてダイレクト尾根にあがる

 本日のメインイベント、ダイレクト尾根の登行にかかる。直上すれば岩稜だが、大山特有のぼろぼろの岩で登る気ははしない。左を巻いてあがれば傾斜がゆるむ。両サイドは切れ落ちてはいるが幅があり、格段の問題はなし。このあたりが地形図記載のの1500m標点だろう。

 ここを過ぎると急雪壁、このあたり堅雪上に20cm程の新雪層が重なり、踏み込みと新雪層が板状に割れる。幸い、板状の雪塊が滑り落ちる程の斜度はない。堅雪層にステップが刻めるほどの強さで蹴込まないと中途半端ではずり落ちてしまう。

 急雪壁を越えると、少し斜度が落ち槍ヶ峰基部らしきところに出る。ガスで岩の状況は不明瞭だ。どうやら最後のつめのようだ。ここから斜度は更に強くなる。四つ足で、力一杯蹴り込んでやっと稜線に出た。時刻は、11:20、本沢からおよそ2時間、ダイレクト尾根に上がってから、およそ1時間である。

本日のメインイベント、ダイレクト尾根登行開始!直ぐの岩稜は左を巻く
岩稜を巻いて尾根筋にあがると斜度が落ちる 両サイド切れ落ちた岩稜帯
平坦部を越えると又、急雪壁! 新雪の下は氷に近い堅雪、
真剣に蹴り込まねばずり落ちる
正面は槍ヶ峰の基部のようだ。左の雪壁にルートを取る 最後は四つん這いの登行で稜線へ!

 はい上がったところは槍ヶ峰の基部(真下)で、槍尾根登行の際、槍をトラバースする所である。尾根上は三ノ沢から小雪混じりの強風が吹き上げている。宝珠尾根パーティもこの天候では縦走なんぞするわけ無いだろうから、我々もこのまま下山することにする。視界は悪いがルートは明瞭、前衛峰の頭からルンゼを下降すれば、あとは忠実に尾根筋を辿るだけだ。しかし、トレースを頼ってはいけない。すでに雪庇の崩壊が進んでおり、踏み抜いて落ち込む可能性がある。

 前衛峰をこえたあたりで鑓尾根登行中のパーティにあう。年配の方のようだったが、なんと小学生も含まれており、アイゼン履いて元気に登っていった。頼もしいねえ・・・お気をつけて!

 しばらくで鉄柱にでる。ここから左折、キリン峠に向かう。途中から尻セード!と思ったが、雪の締まりが良く制動が難しそうなのであきらめアイゼンのままで下降、キリン峠でアイゼンをはずす。

 ここからは下部が樹林帯、適当なところから尻セードで一気に樹林帯にはいる。標高が下がると気温が高い。トレールまで下りそれを辿るが、雪がゆるみ時たま踏み抜く・・・・ここでワカン登場!無駄な労力を使わず快適下降で登山口へ到着したのは、12:45。7:30出発だから、5時間ちょっと、少し物足りない気もするが、天候が天候だから仕方ありません。皆さん、お疲れ様でした。

鑓ヶ峰直下に抜ける。お疲れ様です。 前衛峰のルンゼはバックで下降
雪庇にはクラックが発生、所々、すっぽり抜けている キリン峠分岐の鉄柱に出る
尻セードで一気に下降 登山口から烏ヶ山を望む。すっかり春山になっています。

 帰りは、下山に戻り、宝珠尾根パーティと合流する。彼女らは、ユートピア小屋まで行ったが、ガスで視界不良のため縦走はあきらめ引き返したとのこと・・・・賢明な選択でした。
 
 たまたまWBCの決勝戦、久しぶりの大山そばをいただきながら観戦する。

 今冬は、西中国山地まではまずまずの好天に恵まれたが、そのあとがサッパリつかない。雪の多かった大山も場所によっては、土肌が見え隠れしている・・・来週までかな。

(Reported by Y.Kubo Photo presented by S.Okamura & K.Akazawa)