伯耆大山:東尾根(東壁)〜天狗ヶ峰〜槍尾根 2006.01.28-29

■易しいルートであっても、白い雪面に自らトレールを刻むのは快感である。伯耆大山の元谷方面は入山者が多く、人様のトレールを使わしていただくことが多いが、東面は比較的入山者が少なく自分だけの雪山を愉しめる機会が多い。

 東尾根(仮称、東稜のほうがいい?)は、東壁の急峻な尾根を遠巻きするように円弧を描いて伸び縦走路の1636mポイントに至る。取付は、駒鳥小屋の少し上流、振子沢出合に落ちている尾根である。すでに2回ほど下降しているが、いずれも残雪期の雰囲気の時で、振子沢から尾根の中間部に出るか、逆に中間部まで尾根を下降、そこから本沢へ尻セードしたものであり、尾根を通しで登っていない。比較的容易な尾根だと思うが、下部から通しで登ると、充実する山行になりそうだ、との思いがあった。今回、やっとチャンスが巡ってきた・・・しかも多くの仲間が一緒である。

天気情報では、01/28(土)は曇、01/29(日)は、晴!・・・・下界は期待が持てるが、はたして山中はどうか?

■参加者:
西方、岡村M、三栗、青木、新谷C、原田、速水、岡村S、新谷T、高木、久保、以上11名



■コースタイム:
01/28
奥大山スキー場(07:45)〜鳥越峠(11:00)〜標高1300m幕営地(11:20) 

01/29
幕営地(05:50)〜東尾根取付(06:30)〜1636mポイント(09:40)〜天狗ヶ峰(10:15)〜槍ヶ峰(11:10)〜鉄柱(12:00)〜キリン峠(12:50)〜幕営地(13:00/13:40)〜奥大山駐車場(15:00)
本山行の参加者は、11名

【東尾根(東壁)〜天狗ヶ峰〜槍尾根登行ルート概念図】

 01/27、20:45北九州出発。当初は12名参加の予定であったが、1名体調が悪く不参加、11名となる。人数が多いので久しぶりに高速経由とする。01:30過ぎには奥大山スキー場に到着。丁度、風雪が強まりテントを張る気にならないので車中仮眠とする。明け方には風は収まる。新雪はないしたことはなかったようである。

 今日の予定は東尾根に取り付き、標高1200mあたりで幕営予定だ。行動時間は、5〜6時間だろう。天候は予報通り曇天、樹林帯だし雪さえ降らなければいい。支度して07:45出発する。早朝から除雪車が動き回り場内や道路は綺麗に除雪されている。環状道路を行くと直ぐ冬季用のゲートがある。ここを越えると・・・・いきなり膝下まで埋まる、がよく見るとトレールがぼんやり残っている。それをはずさぬように追えばワカンを履くまでもない。今日は11名もいるので順繰りでトップを代わると楽々進む。

 08:30には、ヘヤピンカーブにある鍵掛峠登山口到着。小休止、全員快調!ここからは樹林帯にはいるからつぼ足、というわけにはいくまい。皆さ〜ん、ワカンの出番で〜す。


環状道路。3月半ばになると除雪される 登山口でワカンを履く

 樹林帯に入る。トレール無し。ルートは、地形図上では概ね北北東へ向かって直進すれば鳥越峠に出られるが・・・実際には左の尾根につかず離れずに進み、尾根が左に折れるあたりから尾根を離れて直進すると小さな尾根に出るのでそれを登る・・・標高1100m過ぎたあたりでトラバース気味に右斜上していくと鳥越峠近くに出る。樹林帯も順繰り・・・11名も踏むと後半は見事な階段!トップ担当の回数も少ない・・今日は土曜日の為だろう、誰にも会わず我々だけの山が愉しめる。

ラッセルは順繰り、総出で頑張る 自らつけるトレールは気分がいい
烏ヶ山に続く尾根
トラバース気味に緩やかに右斜上していく 傾斜のきつい鳥越峠直下

 のんびり登行だが、11:00には鳥越峠に出る。駒鳥側は大きな雪庇が出ている。前回は、ここから標高を保ちながらトラバースしたが今日の積雪量ではやめたがよさそうだ。峠から左折、急な尾根を越えるとキリン峠の取付にでる。ここは標高1300m位で平坦地になっており幕営には最適だ。

 時刻は、まだ11:20。さて予定通り行くか、ここでやめるか・・・・予定では、本谷に下降、東尾根に取付、1200m付近にベースを張り天狗ヶ峰往復だが・・・・・明日は予報では晴れだし、うまくいけば天狗ヶ峰から槍尾根下降できる。槍尾根下降すれば、東壁周回ルートになり登り返しもなくここに出る。時間的にも相当早い。問題は、槍ヶ峰付近の下降だが、ザイル出せばなんとかなるだろう。最悪、東尾根往復にしても軽装での登り返しの方が遥かに楽だ・・・・よし、ここをベースにする。そして明日は今日やめた分早めに出よう・・・・

 『皆さ〜ん、ちょっと早いが今日はここでオシマイ!ここをベースにします』

 『エッ!まだ11時過ぎなのに、もうやめるんですか?』と不満が出そうだったが・・・皆さんにとっては予想外の展開!しかし顔は笑っていましたねえ。曇っていた空も少し薄くなり時たま日が差す・・・たまにはゆっくりしましょう。早速、3張り分整地しテント設営する。

快適なテントサイト ほんのり焼酎顔!の5人姉妹

 テント設営後、明日のためにトレールをつける。ワカン履いて10分ほどで尾根に出る。ここは東壁の絶好の『展望台!』 少しガスがかかっているが、キリン沢を挟んで東壁が眼前に展開する。

 『大きく張り出した真っ白なボリューム満点の尾根はキリン尾根、その突き上げた稜線が槍尾根、右に目を移すと鋭いピークがあるでしょう、あれが槍ヶ峰。明日はあそこを通るんですよ。明日登る予定の東尾根は、ず〜と右に行ってあの尾根、下部が樹林で上半分が白い尾根・・・・』、『ふ〜ん・・・そうですか・・・わかった!』といっているが、ホントにわかっているのかねえ。


 明日のために少し先に進む。緩やかに下降し尾根が本谷へ急に落ち込むところまで行く。対面が東尾根になる。明日は1時間足らずで東尾根取り付きまで出られそうだ。
午後になると更に天候は良くなり気分のいい時間を過ごす。ほどよい量の焼酎で夕方は早めに就寝する。深夜は満天の星空!あすは期待通りのようだ。

アルペンムード満点の槍尾根と槍ヶ峰、ボリュームのある白い尾根はキリン尾根
最奥は振子山、一つ手前の緩やかな尾根が東尾根 午後になると青空が広がる

 01/29、4時起床。朝食を済ませて、3人用4人用テントは撤収し、置いていく荷物はすべて6人用にデポする。ランプをつけて、05:40出発。昨日のトレールを辿る。ワカンは不要だ。

 昨日の展望台まで登りそれから尾根沿いに緩い下降、しばらく行くと少し右にターンし谷底めがけて急下降。股下までの積雪の中を泳ぐようにして下ると本谷に出る。丁度正面が東尾根の末端である。小休止、周囲が少し明るくなりランプ無しでも行けそうである。


 小休止して尾根に取り付く。しばらくは急だがやがて傾斜が落ちる。登行の痕跡が全くないこの尾根は、緩急を何回も繰り返しながら高度を上げる。やがて夜が明け、ほんの僅かの時間だが東壁がモルゲンロートで赤く染まる・・・・・・よそ見しながらのラッセルは続く。

 少し風が強くなってきた。標高1300mを越えると樹林がきれ低いブッシュとなり、強風をまともに受けるようになる。当然のことながら所を同じくして今までワカンで具合の良かった雪面がクラストした雪面に一変する。ストップ!アイゼンにチェンジ!ついでにハーネスをつける。

 更に強風をまともに受けるので安全のためアンザイレンする・・・・・とはいうものの尾根はさほど痩せているわけではないので、『精神安定剤』みたいな役割が大きいが・・・。

風が強くなり、雪煙があがる ポーッとする暖かい日差しを浴びながらラッセルは続く
モルゲンロートに染まる東壁壁沢 澄み切った朝の光は輝く
最奥は主稜線。右手、ピラミッド状のピークのある尾根が東尾根上部、小ピークが2,3ある。
中央東尾根上のピークから本沢に落ちているのが中俣尾根
ワカンはここまで、アイゼンにチェンジする 強風!飛ばされないように!ザイルがあれば安心?

 尾根は少し痩せてくる。風は相変わらず強く、注意しなければ飛ばされそうだ。尾根上の2,3のピークは巻かずに忠実に尾根を辿る。上部は傾斜が強くしかも堅雪になるので、4つ足になって蹴込みながら登る。雪庇は左手本沢側に出ているが、斜度が緩いため庇というより塊?しかし尾根筋をはずすと空隙に落ち込むので、ぞんざいな登行は禁物だ。

 次第にガスが出てくる。しかしルートを遮るほど濃くはない。東尾根に取り付いて3時間、主稜線が直ぐ上部に迫ってきた。最後は、ぶ厚い雪稜を振子沢上部を絡みながら登れば、1636mポイントの小ピークに出る。やっと主稜線に出た。皆さ〜ん、お疲れ様です!顔を拝見すると、ホントにお疲れのようす・・・・風が強い上、はき慣れないアイゼン履いて、ほとんど休み無しだから疲れるでしょうネ・・・しかし時刻は、まだ09:40である。

少し痩せてきた尾根、小ピークは忠実に尾根筋を辿る
バックは振子山。左が振子沢 遠くに甲ヶ山〜矢筈ヶ山を望む
手前の白い稜線は振子山
1636mポイントが近づく、主稜線間近! 1636mピークへ最後の登り

 温かいお茶飲んだら最終目標の天狗ヶ峰へむけ腰を上げる。先程までの強風は場所を代えたようで、少し穏やかになる、が今度はガスが濃くなる。ガスが濃いと距離感が狂い僅かの距離でも遠く感じてしまう。主稜はかなり痩せているので慎重に伝う。

 遠く感じたが僅か20分足らずで天狗ヶ峰到着。槍尾根分岐を示す真新しい道標が頭を出している。南壁側には、カール状に巻いた雪庇が出ている。時刻は、10:15、東尾根取り付きから4時間ほどかかったが、まずまずの出来、お疲れ様で〜す。狭い稜線に一列縦隊に並び記念撮影。

 天狗ヶ峰は、南壁、東壁、北壁が一点で接するところ、視界があればすごい高度感なのだが・・・3つの壁、共にガスで何にも見えない、残念ですねえ。


天狗ヶ峰に全員集合、縦走路に一列縦隊で記念撮影 アンザイレンして槍尾根下降にうつる

 一息入れたら下山にかかる。谷はガスの中だが尾根筋は時たま視界が開けルートの確認が出来る。次第にガスもとれる方向のようだし、風も弱くなったので槍尾根を下山することにする。勿論、アンザイレンのままだ。

 下降なので、適時ザイルをフィックス、カラビナケーブルで通過させることにする。天狗ヶ峰からしばらくは尾根は痩せ、新雪が急なガレ尾根にふわっと乗った感じで足許がが覚束ないが、そこを過ぎれば少し幅広くなり雪も安定する。核心部は、槍ヶ峰の通過だろう。槍ヶ峰までは、2つほど小ピークがあるが、見通しさえ効けば問題なく通過できる。


 やがて槍ヶ峰手前の小さなコルに到着。天狗ヶ峰から下降してくると槍ヶ峰ピークへは簡単に達せられる。ピークの向こうは断崖になっているので、ここは手前の小さなコルから右手を巻いてクライムダウンすれば、反対側のコルに出る。ここもザイルをフィックスして通過する。60m程回り込む為コールが通らないので、中間で中継させる。足許が少し不安定だったが、皆さん問題なく通過する。以降すべて稜線通しに行くことになる。

 コルから槍ヶ峰前衛峰になる小さなピークにあがれば、次は10m程ルンゼの下降である。更に足許の空洞に踏み込まぬよう注意して小さなこぶにあがれば核心部は終了である。

 この後も幾つか小ピークを越えるが、問題のあるところはない。但し、左手東壁側には大きな雪庇が出ているので、要注意!ピッケルで確認しながら慎重に下降を続けると、やがて鉄柱に出る。ここがキリン峠方面への下降点である。


槍ヶ峰のコルから下降開始 フィックスザイルを伝いトラバース気味に下降
槍ヶ峰を通過、槍の前衛峰にあがる 前衛峰からルンゼを下り、
小さなコブにあがれば核心部終了
東壁側へは巨大な雪庇が出ている。三ノ沢側は吹き飛ばされて
雪は深くないのでピッケルをさせば尾根筋は確認できる
キリン峠への下降点を示す鉄柱 上部は傾斜がきつく堅雪なので
後ろ向きで下降

 鉄柱まで来るとほぼ安全地帯!後はキリン峠への下降を残すのみである。スリップさえしなければ問題ない。上部は傾斜が強く、堅雪なので後ろ向きで下降するが、以降は蹴り込みが効くので気分良く下る。尾根をはずれたので無風になり、しかも日差しが強く春山の様相になってきた。アイゼンやピッケルのシャフトにも雪が付着し、ダンゴ状態!これで堅雪に軟雪が乗っている雪面を不用意に行くとスリップする危険がある。

 まめに付着した雪を落としながら行けばキリン沢の源頭にあたるコルに到着・・・ここからはホントの安全地帯。小休止してアイゼンはずし、腹ごしらえをする。春山のようで心地いい風が汗を拭き取ってくれる。


春山気分で快適下降 ここまで来れば安心です、お疲れさん!

 キリン峠を越えれば、直ぐベースである。頑張りましょう!烏ヶ山を正面に望みながら尾根を辿るとキリン峠のピーク。下方に黄色いテントが目に入る。一投足でベースのテント到着、皆さん、お疲れ様です。時刻は、13:00、地形図で見るとほぼ円状に一周してきたが、意外と早く着いた、と思う。この時刻であれば、北九州着は深夜にならずに済みそうだ。

烏ヶ山を正面に見てキリン峠へ向かう 下方にベースのテント
これで周回コースは完結

 手早くテント撤収、パッキングし直して13:40出発。幸いながら昨日のトレールはしっかり残っている。各々のペースで休まず歩いて奥大山スキー場へ!14:45〜15:00にかけて全員何事もなく駐車場へ到着する。

 
 振り返ると、快晴の青空に、先程通過した大山の稜線が眩しく輝いていました。今回は、天候に恵まれ非常に幸運だったと思う。数少ないチャンスに思い通りの山行が出来て皆さん、大満足でした。今年は、何となくツイているような気がするが・・・・次回はいかがなりますでしょうか。



【←下山準備中、トレールが残っていてもワカンが楽!】

奥大山スキー場から望む大山主稜線
中央の最も高いピークが剣ヶ峰、その右が天狗ヶ峰、三角形が槍尾根、右端がキリン峠
大山遠景(御机〜美用の車道から)


【Reported by Y.Kubo Photo presented by S.Okamura & Y.Takaki】

■温泉:新見千屋温泉”いぶきの里”、夕食は、『ふる里』 ■帰途は、往路通り。北九州着は、21:00