中ア:上松道〜木曽駒ヶ岳・宝剣岳 2005.12.302006.01.01

■本年は、昔の冬に戻ったみたいで雪が多い。12月はじめから降雪が続き、全国的に記録的な大雪になっている。

 正月が近づいても止みそうにない。このように降り続いた場合、雪崩の危険性の高い急峻な尾根登行は避けるべきだと判断、目的地を北ア穂高西面から中アに変更することにした。

 新目的地?・・・・本年12月初旬(2005.12.09-11),上松道から木曽駒ヶ岳を目指した。しかし積雪のため予想以上に時間を食い、標高2730mあたりで中退となった。
 一旦取り付いた尾根だ、この際完登しておこう!・・・・日程は3泊4日、1/2中には下山、可能ならば空木岳まで縦走し池山尾根を下降する計画とする。


 しかし、なかなか思い通りに行かない。1日目(12/30)は、2250mまであがり幕営。2日目(12/31)、大雪のため木曽駒通過が大幅に遅くなり、予定していた檜尾岳近くまで行くことが極めて困難となった。1/1-1/2は天候の悪化の予報もあったため、宝剣岳で終了とし、元旦の午前中千畳敷に下山した。

【右写真:2006年元旦の宝剣岳(千畳敷から)】
 天候の崩れが遅れたのか元旦は快晴に恵まれたが、1/2は悪天になったようである。結果的には、これでよかった・・・・のか?

 やはり1日目は、なんとしても2600m(8合目)あたりまで行かねば、4日間での縦走は困難である。予備日を考慮すれば5日間は必要だろう、と思う。そうすれば反省するところ多々あり、ということになりそうだ・・・機会あれば、別ルート(麦草岳〜前岳経由)で再度チャレンジしましょう

■行程:
 12/29 北九州(15:00)〜中津川IC〜道の駅『大桑』(23:30):車中泊
 12/30 上松道登山口(07:20)〜金懸小屋(11:10/11:30)〜標高2250m(13:30):幕営
 12/31 幕営地(07:30)〜8合目(11:00)〜木曽前岳(13:15)〜玉の窪(13:30/13:50)〜木曽駒ヶ岳(15:00/15:30)
      〜宝剣山荘(16:30):素泊
 01/01 宝剣山荘〜宝剣岳往復〜千畳敷(10:30)

■参加者:赤澤、岡村S、久保、以上3名
■温泉:フォレストスパ木曽(入浴料:800円、レストラン併設)
■登行ルート概念図
行動記録

12/29、木曽駒ヶ岳登山口であるアルプス山荘前(標高1070m)までは、北九州から850km程の距離である。4名の予定だったが休暇の調整がつかず今回は3名の参加となった。3名なら車中で横になれるので適当なところで仮眠する予定で出かける。

中央自動車道中津川ICをで19号線を北上すると次第に周辺が雪国に変わっていく。気温の表示は零下4−5℃、かなり冷え込んでいるようだが路面は乾いている。渋滞もなくスムーズに、23:00過ぎ道の駅『大桑』に到着。トイレ完備のここで仮眠することにする。

12/30、5時過ぎ起床、登山口へ移動する。天候は薄曇りでまあまあのコンディションである。登山口の駐車場に車はない。先行者がなければ前回同様ラッセルになりそうだ。支度して、07:20出発する。滑川は大規模な砂防ダム工事中であるが、前回ルートは確認済みであるのでロスタイムなく進む。
工事事務所横の車道をつめ、上流に赤い橋が見えるところで河岸に出て左岸に渡渉。赤い橋から降りてきている林道をしばらく行くと、実質的な取り付き出ある敬神の滝小屋に出る。時刻は、08:00。小屋の寒暖計は、−8℃を示している。積雪は、20cm位だが、ありがたいことにトレールが残っている。

さあ、まいりましょう!
今回の参加者はこの3名です
工事現場を通過しなければならない 左岸へ渡渉

 小休止。雪が多そうなのでザックカバーをつけて登行開始。しばらくは植林帯で少しうっとおしいがそのうち自然林になり明るくなる。日も差しはじめ単調な登りの退屈な気分を紛らわせてくれる。急がずゆっくりしたペースでジグザグにつけられたトレールを追う。やはりトレールはありがたい。
 敬神の滝小屋を出発しておよそ3時間後の11:10、5合目金懸小屋に到着する。標高差700mを3時間だからまあまあのペースである。綺麗な小屋なので中に入り腹ごしらえする。

敬神の滝小屋(閉鎖中) ジグザク登行で比較的楽に
標高があがる
先日お世話になった金懸小屋
(5合目、標高1914m)

 前回はここでストップしたが、今回はもう少し登っておきたい。11:30、腰をあげる。胸突八丁の急坂を越えるとこの尾根末端のピークを右から回り込むように通過、少し下降すれば『ラクダの背』の標識がある。このあたりから雪が深くなる。半ば埋もれかけたトレールを辿るが、少しラッセル気味になり結構疲れてくる。やっと6合目通過、それにしてもこの尾根の1合は長い!

 6合半を過ぎると10分程で13:30、前回目星をつけておいた広場に出る。ここは標高、およそ2250m、木曽駒ヶ岳まで残り700mである。トレールがあるので、5〜6時間もかければ登頂出来そうだ。8合目(2600m)まで行けばベストだが・・・ここでも何とかなるだろう!今の調子じゃ8合目まであと2〜3時間はかかりそうだ。今日はすでに6時間を経過、標高差1200mもこなした、余り無理せず明日頑張ろう・・・・・・あれやこれや、これ以上進まない理由付けをして、ここで幕営することにする。


深くなった積雪
適度に休憩をとる
べっとり付雪した樹林 樹林に囲まれた幕営地

 14時半過ぎには設営完了。4人の予定で荷上げした6人用テントでゆったりくつろぐ。今日は程よい疲れで、僅かなアルコールが美味い。16時頃、『有り難うございました』と女性の声。多分、トレールのことだろう。はて、単独行かな?
夜半になると周期的に尾根を襲う強風の咆哮を聞くが、設営した場所は樹林に囲まれている為テントは殆どゆれない。風の咆哮に混じり、サラサラと降雪が外張りを滑り落ちる音がする・・・・・ああ、トレールが埋まる!・・・・どうやら明日はラッセルになりそうだ。

12/31、いつもよりちょっと遅い5時半起床、簡単に朝食を済ませ撤収する。7:30、出発。案の定、強風によりトレースはほぼ埋もれている。新雪はたいしたことはなかったようだ。

 この尾根はトレールが失われても8合目までは夏道を見失うことはない。ひと登りすると緑色のテント、女性が外で出発の準備中である。昨日の声をかけられた方のようで、単独ではなくパーティのようだ。簡単に挨拶して通過、黙々とラッセルを続けるが、遅々として進まず・・・・今のペースでは計画通り宝剣を越えられるかな?

一登りすると5人パーティが幕営 ラッセル、ラッセル! 滑川を挟んで
三ノ沢岳(2846.5m)が大きい

 次の目標は7合目、急がず雪を漕げば、後に人の気配!振り向くと、『ラッセル、お疲れ様で〜す。』と4人のパーティが迫っている。先程の緑のテントのパーティで、我々より1時間ほど遅れて出発したとのことだ。木曽駒ヶ岳を往復する予定とのこと、ここで先頭を替わってもらうが彼らは軽装、こちらは重装備、見る見るうちに差がつく。しかし、これで少し助かった・・ヤレヤレだ。更に一人に追い抜かれる。先程のパーティのメンバーらしい。

 7合目で更に一人、単独行で5合目の小屋からとのことで木曽駒往復のようだ。このあたりまでくると時折展望が開け、後方樹間に雄大な御岳が、右手には三ノ沢岳、視線を尾根に沿って辿ると荒々しい宝剣岳西面の岸壁が大きく迫る。


雄大な3000m峰の御岳 宝剣岳と西壁の岩稜

 やっと8合目に到着。時刻はなんと11時になっている!う〜んちょっと時間がかかりすぎる、しかし前回より遥かに雪は深いので仕方ないネ。小休止して腹ごしらえ。ここまで来ると俄然視界が開ける・・・ということは風当たりも強くなる、ということになる。ここから冬季はトラバースルートを避けて尾根ルートを辿る。7合目から前後するようになった単独行の方と一緒に強風で消えかかるトレールを辿る。

やっとこさ森林限界である8合目に到着。紺碧の空が眩しい!

 雄大な眺望と紺碧の空、そして純白の新雪!・・・気分は勿論、爽快!爽快!なのだがこういうシーンに限って何か気分を損ねる邪魔物が入る・・・左手から強風が吹き付ける。時たま立ち止まるほどの突風が吹く。フードの左側を幾分深めに被り、体を少し斜めにして強風を背中で受けるようにして歩を進める。先行している5人のトレールなのに、時折不意打ちを食らって腰まで埋もれる。埋もれると脱出に力を使う。強風と突然の踏み抜きに抗して高度を上げる。

8合目から上部は稜線通しに行く
北西からの強風が吹き荒れる。二人目は単独行の方
一段と険しさを増した宝剣岳西壁

 前岳(2826m)は、地形図で想像するより遙かに大きく雄大である。雪煙の舞う頂稜はまだまだ遠い。しばらくで前回の中退地点を通過する。見上げると先行された5名のパーティが下山してくる。もう下山とはさすがに早い!

 『ラッセル、有り難うございました。それにしても早いですねえ』・・・『いや、木曽駒迄行っていません。突風が酷く危険と判断したので前岳手前で退却してきました』とのこと・・『皆さん、気をつけられたがいいですよ!頑張ってください』・・・・・『有り難うございます、お気をつけて!』


 彼らと別れ、しばらくで少し痩せた稜線に出る。ここを越すと基部につく。見ると風で雪が飛ばされ、夏道が一部露出している。どうやらこれで前岳に出れそうだ。ネジ巻いて急坂の夏道に沿って重い足を引き上げる。

まだまだ遠い前岳の頂稜。前回の中退地点はもう少し先である。
やっと基部まで到着、
夏道を辿れば一登りで頂稜である
遮る何者もない穏やかな雪稜を行く

 急坂を登れば緩傾斜の雪面、右斜上すれば、麦草岳へのルートの分岐を示す標識がある。頂稜は風で雪が飛ばされるため標識は埋没していない。稜線の正面には三角錐の木曽駒ヶ岳が姿を現す。山頂直下の小屋と山頂の社殿が確認できる。そして左手には木曽駒から続く北部の山稜が望める。木曽駒ヶ岳までは・・・あと1.5時間ぐらいかかりそうだ。

 緩い起伏を越え、前岳(2826m)を越すと最後のピークに出る。正面には深い谷をはさんで滑川源頭から宝剣岳に突き上げる急峻な岩稜とルンゼの迫力のあるパノラマが展開する。


もう少しで頂稜にでる 頂稜からは中ア北部の山稜が望める
麦草岳へ行くBコースと、上松行きのAコースの
分岐を示す標識。最奥は木曽駒ヶ岳
最奥のピークは木曽駒ヶ岳。正面の岩の鈍頂が前岳
玉ノ窪への下降ポイントはもう一つ先のピーク
振り返れば白稜の彼方に雄大な御岳! 最後のピークに出るとルートは左へ下降
最後のピークに出れば滑川の深い谷を挟んで
鋭い岩稜とルンゼのパノラマがフルスクリーンで展開する

 最後のピークで、ルートはほぼ直角に左に折れ屋根だけ出している玉ノ窪山荘(2756m)へ向かう。キック効かせて快適に下ると、そこはコルの為か強風の通り道になっている。小屋がすっぽり埋まっているためコルの断面形状がなめらかになり小屋自体が障害物にならず、風を避けるところがない。しかしメンバーの差が少し開いたので20分ほど休む。後は木曽駒の登り、約200mを残すのみである。

目と鼻の先の木曽駒
最後のピークの標識 キックを効かせて快適下降で玉ノ窪山荘へ!勿論、冬季閉鎖中

 13:50、3名そろったところでスタートする。傾斜はさほどないが、重荷で6時間以上経過しておりみんなそろそろお疲れの様子、時間ばかりが経過する。亀さんの歩みになるが、それでも15時にはピークに立つことが出来た。いや〜本当にお疲れ様です!

 木曽駒ヶ岳は中アの最高峰だけあって、展望は360度グルリ!ほしいままである。ゆっくり眺望を愉しむ。

 南に目をやれば宝剣岳から空木岳の主脈!さ〜て、どうするか?
 すでに15時を過ぎている。今から宝剣越えたら暗くなりそうだ。予報では、1/1〜1/2は悪化するとのことだった。仮に晴天だとしても今の調子から判断して後2日で空木岳を越え池山尾根を下降するのは、極めて難しそうだ・・・・いつもあれこれ考える・・・

 結論は、縦走中止!今日は稜線に泊まり、明日宝剣岳を往復して千畳敷に下山する、ということになった。

木曽駒ヶ岳(2956.3m)山頂。伊那と木曽の2つの社殿がある駒ヶ岳神社
前岳〜牙岩〜麦草岳の稜線(木曽駒ヶ岳山頂より) 三ノ沢岳(木曽駒ヶ岳山頂より)
宝剣岳から連なる南部の山嶺:空木岳、南駒ケ岳(木曽駒ヶ岳山頂より)
富士山と南アルプス南部の3000m峰、塩見岳、荒川岳、赤石岳、聖岳を望む。
手前は中岳(右)、伊那前岳(左)
富士山と南アルプス北部の3000m峰、左から仙丈岳、北岳、間ノ岳、農鳥岳を望む

 丁度、山頂に居合わせた単独行の方に聞くと、宝剣山荘はオープンしていて泊まり客、僅か2人とのこと。よし、正月だから少し奮発して小屋の素泊まり!に決定。記憶違いがなければ冬山で営業小屋に泊まるのは、多分はじめてだと思う。

 30分ほど休憩して下山にかかる。一旦、稜線にある駒ヶ岳頂上山荘まで下り、中岳(2925m)に登り再度下降すれば宝剣山荘である。

下山にかかる。正面は中岳 中岳より、宝剣岳を正面に見て下降

01/01(元旦)、予想に反して嬉しい晴れ!しかし東の空に雲がかかり御来光はダメだったようだ(我々は遅起きで外に出ず)。昨日は、我々の後、若い女性二人が素泊まりで小屋に入った。千畳敷からとのことだが、なにやらやたらでっかいザックをしょってきている。中身を聞くと・・・・・なるほどと思ったが、おじさん達とは持ち物が違う!・・・・話していたら、明日宝剣に行かれるのであれば同行させてほしい!という・・・・OK!ザイルもあるから大丈夫ヨ

 そのようなわけで5名で宝剣を往復する。宝剣岳は、雪がよく締まりアイゼンがしっかり効くが、部分的に氷化したところもあり注意が必要だ。頂上直下のトラバース部分が特に要注意である。女性二人を間に入れてアンザイレンし問題なく山頂に立つ。

さあ、行きましょう!宝剣岳へ このあたりで
アンザイレン
核心部、宝剣沢上部のトラバース
宝剣岳山頂!今年も元旦の日を浴びる! 下降は慎重に!(核心部のトラバース)
予定していた主脈縦走・・・残念だが又の機会に!

 小屋に帰り支度して下山にかかる。

 千畳敷までは300m足らずの下降だが、上部は傾斜がきつい。しかし、東面に位置するので北風があたらずのんびり下降出来る。純白のカールに日が差すと春山のように明るく眩しい。振り向けば岩の稜線の向こうは雲一つない紺碧の空が広がる。さほどスケールの大きくない千畳敷カールだが、雪山の爽快さを満喫する。

 10:30、千畳敷ロープウェイ駅舎に到着・・・ここからは下界だ。ホントの下界へは、10:55のロープウェイでしらび平に下り、更にバスに乗り継いで駒ヶ根に出ることになる。
 結果的には、天候がずれたため1/1が晴天のもとで行動可能となった。少し悔いが残らないでもないが・・・最終日に、しかも元旦に爽やかな雪山を満喫できたので、よし!としましょう。

 参加者の皆さん、お疲れ様でした。

キックがよく効く快適な下降 この坂で最後。登ればロープウェイ駅舎&ホテル
紺碧の空のバックに、雪をまとう岩峰(宝剣岳)が映える・・・新年、おめでとうございます!

この短い坂を登れば、山とはお別れです・・・・・僅か三日間の山行でしたが、雪山の”おいしい”ところ満喫しました。
又、機会見つけて訪ねます・・・・サヨナラ! Good-by !

【Reported by Y.Kubo  Photo presented by S.Okamura & K.Akazawa】