初冬の富士山:河口湖口〜剣ヶ峰 2003.11.22-24         

11.21、22:00小倉出発。4名でおよそ2時間おきに交代で走る。ルートはいつもの通り、山陽道〜名神〜中央道経由で山梨に入る。11.22、6時過ぎには諏訪湖SAに到着。予定の富士スバルライン11月の営業時間は、9:00〜18:00である。時間に余裕があるので朝食を取り高速代節約の為、諏訪ICで高速をおり、今年7月に走ったR20を一路、甲府方面へ向かう。小淵沢、白州、韮崎、等何回か訪れた町をのんびり行けば右に甲斐駒、左に八ヶ岳、正面に富士山、と遠望できる。またまたやってきましたネエ・・・。

甲府市からR137を河口湖方面に向かう。長〜い御坂トンネルを抜けると、オオッ!と全員が驚嘆の雄叫び!(今回は男だけですからネ)
いきなり標高3700mあまりの巨峰:富士山が視界に飛び込んできた。快晴の空に圧倒的な高さで屹立する白い峰は、まじかで見るのは初めてのせいもあるが、それだけで、う〜んとうなるほどの存在感だ。圧倒されるから逆に登行意欲も湧く。

考えてみたら、行かずして語れるわけないのはごくあたりまえのこと。観光登山の山に行かれるか、と思っていたが、夏はそれでもいいだろう。行列連ねてまで行くことはあるまい。しかしシーズンオフは?・・・・夏とは、全く違う様相の富士のようだ。まだ登ってもいないが・・・・いい山行ができそうな気がする。


 連休にしてはがら空きのスバルラインをのんびり行く。緩傾斜で富士の裾野を大きく回り込むようにつけられたドライブウェーを、すでに落葉した晩秋の佇まいを愉しみながらのんびり走る。
 スバルラインは距離約30km、4合目大沢駐車場からは、『大沢崩れ』が望まれ、これが富士?結構険しそう。やがて5合目到着、入口ゲートからおよそ40分ほどのドライブだった。(料金は往復で¥2300)

 富士スバルライン5合目は標高2304m、ここは大駐車場完備の観光地である。立ち並ぶレストハウスや観光客を気にしなければ標高が高いだけに高山の雰囲気十分!風にのり耳に届く観光客の会話はまさに『多国籍軍!』、外国人の観光客が多いのでちょっぴり海外の気分だ。

 5合目駐車場から仰ぎ見る富士も河口湖から見る秀麗な富士とは別物のようでアルペン的、登行意欲が湧いてくる。

河口湖から富士を仰ぐ

 身支度をし登山届を提出、11:25出発する。少し下り気味に広い車道(車は通行不可)を東に少進む。しばらくで佐藤小屋への道を左に見て、吉田登山道6合目に続く右へあがるゆるい傾斜の遊歩道に入る。しばらくで樹林帯は途切れ広大な砂礫地に出る。左から上がってきている『馬返し〜佐藤小屋』からの道に合流し右に行く。

 ここから7合目まではジグザクにつけられたよく整備された歩道で、土石止めが歩道に沿うように設置されている。時たま強風が吹き砂塵が舞う単調な砂礫の道を行けば本日の宿泊予定の標高2700m近い7合目である。


 2つ目の小屋横に格好のサイトあり。時刻は13:00で早すぎるが、明日も山頂泊まりの予定、余裕があるので本日はここまでとし幕営する。昨晩は夜通しの移動で睡眠不足、ビールと焼酎+オツマミ少々+カレーライス、で第一夜をすごす。
 7合目あたりの残雪はゼロ、当然予想されたことなので水は各自3リッターほど荷揚した。夜は多少の風はあるものの睡眠を妨げるほどの強さはなく快眠する。7合目は富士吉田市の夜景が眼下にありとても明るい。
4合目大沢駐車場から仰ぐ富士 5合目駐車場から仰ぐ富士

スバルライン終点の5合目 6合目から7合目まではジグザグの登り 7合目小屋横に幕営

11.23快晴。今日は山頂までの予定、標高差は1100m弱だが、標高3200m以上の高度は初めての体験である。高度障害の恐れもあるので6時間位のペースで登行する予定。未明から多くの登山者が行動開始し横を通過していく。我々は山頂泊だから遅めの7:25出発。
7合目から9合目までは、多くの小屋をつないで夏道が続いている。小屋間は、初めは溶岩の易しい岩稜であるが8合目過ぎると雪面を踏んでの登行に変わる。標高約3100mの蓬莱館でアイゼンを履く。傾斜はさほどない。雪面から出ているポールが夏道を示しているのでそれを拾いながらジグザグにターンを繰り返しゆっくり歩を進める。


このルートは小屋、小屋そして又小屋! 吉田大沢を行く登山者。本当はこちらが面白い!

途中、下山中の年配の登山者が突然興奮気味に声をかけてきた。『見ました!先ほど2人滑落した。ものすごいスピードで滑り落ち見えなくなった!』・・・・8合目あたりから見る登路左手の山頂からかけくだる広大な雪面は何もさえぎるものがない鏡面のように太陽光を鈍く反射している。アイスバーン化しているのだ。スリップしたら氷の滑り台!雪の消える地点まで、あっという間もなく滑り落ちるだろうことは容易に想像できる。やはり事故は起きる・・・・

8合5勺をすぎると小屋はない。バーンした雪面を慎重に行く ぬけるような青空に向かう登行は気分爽快!

小屋はまだ続く。(数えもしなかったが資料で見たら7合目から8.5合目まで15もある!)本8合目は標高3300mあまり、既に未経験の高度にはいる、が今のところ全員快調である。最後の小屋のある8合5勺(3456m)を越える。頭上に9合目の鳥居が、そしてその彼方に稜線直下の鳥居が見える。9合目鳥居まで登路は右手吉田大沢を区切るリッジに沿いながらつけられている。9合目鳥居から氷結雪面を斜上、山頂の鳥居に至るのがルートのようだ。

9合目から山頂稜線を仰ぐ。核心部は今からだ! 山頂直下のトラバース。緊張の登行ガ続く!

いよいよ今日の核心部である。午前中の滑落事故もここで発生しているようだ。気を抜かないこと、よそ見歩行をしないこと、2点支持厳守、ピッケルのシュピッツェ確保に不安があればピックに切り替えること、等再確認して登行開始。正面は下降者が多いので、巻き添えを避ける為右手リッジ沿いにあがる。60mザイルは持参しているが、2−3ピッチになりそうだし確実な支点も取れそうもないのでノーザイル(自己責任)で行く。下降者をクリアできた地点から斜上するが、文字通りバーンしてアイゼンの食い込み僅かで厳しい。幸いにも風は強くない

緊張の一歩一歩で斜上を終え安全地帯にはいる。トラバース途中一ヶ所板状にはがれた所があったが、あそこでバーンした面が割れスリップしたのかもしれない。縦横無尽にその方向と強さを変える富士独特の風も危険だが、バーンだって何時割れるかわからない。(注:★参照)

いや〜厳しかったネエと全員、ニッコリ!久須志神社の鳥居をくぐれば山頂である。到着は、12:15。所要時間は5時間弱、ちょっと早すぎたかもしえない。

山頂は強風の舞う凍て付く氷の世界である。小屋や石の防風柵の付雪は全て氷化、平坦な所ですらアイゼン無しでは危険だ。各人高度の影響も少なからずあるので御鉢廻りは明日にしテント設営にかかる。
辺りを探すが風に対して安全と思われるところは2−3ヶ所しかない。夏は展望所らしいテラスを選定、すぐ横の防風柵に沿うように設営することにして作業開始。氷化した雪にはスコップは全く歯が立たないので、ピッケルを振るって掘り下げ整地する。設営テラスから下方を覗くと先ほどの広大なバーンした雪面が数百メートルのはるか彼方まで続いている。強風にあおられテント丸ごと落ちたら・・・・笑い話にもならない。
小屋を支持している太い丸太とテラスの鉄柱にザイルを張り、それに細引きで4ヶ所、テントポールから直接確保をとる。風上側の外張をピッケルで固定する。何とかしのげるだろう。14:00作業完了、早速テントに入る。カッティング作業と高度障害のせいか、食欲不振、軽い頭痛、頻繁に出るなまあくび、眠気等各人各様・・・お疲れ様です。焼酎を10倍くらいに薄めて飲んだがかなり効く。高所ではアルコールは止めたがよさそうだ。疲れが酷いので早めに夕食を済まし横になる。

狛犬の守る鳥居をくぐれば山頂だ 凍てつく山頂。アイゼンなしでは動けない! テント設営完了。ザイルの確保が頼もしい

我々が山頂に到着しテント設営する間、更に3人滑落したことを下山後知る。積雪期の富士は、本当は恐ろしい山なのかもしれない。

15m/s位だった風は夜がふけるにつれ強まる。リズミカルに、そして気ままに吹き荒れる風は外張りをはたき、テントをゆする。風上側に寝ていると一定間隔でまるで人がテントを押しているかのごとく押し付けられる。時たま突風が吹くとテント底面がフワ〜と浮く感じになる。ザイルで確保しているので大丈夫と思うが、何時間も続くと繰り返し荷重がかかり、堅く突き刺したピッケルもだんだん緩み、ある瞬間に一気に抜けてしまうのではないか、と不安になる。夜中12時過ぎても一向におさまる気配がないので、起き上がりピッケルをチェックするが、氷結して固定され大丈夫のようだ。風は一時午前3時ごろおさまったが、その後また吹き出した。しかし強さは昼間の程度でありようやく安心する。

気ままな風に翻弄されるのはテントだけではない。小用を足すとなると大変だ。『返り血』?を浴びない為には風向きの変化にすばやく対応せねばならず、時として足しながら動き回らねばならない。クルクルと・・・・ああ、おれはなにやってんだ・・・。
11.24夜明けを迎える。日の出は6時半頃、テントを設営したテラスは御来光を見るには最適の場所である。吹流しをあけると下界を埋め尽くした雲海の彼方が、次第に橙色に輝き、やがて一気に陽が昇る。サーッと射した橙色の光線が雪面を染める。いつもの夜明けだが今回は日本の最高点からみる夜明けだけに素直に感激する。朝食を取るが、昨夜あまり寝ていないにもかかわらず今日はみんな元気を取り戻している。食事後、テントが飛ばされぬよう慎重に撤収、ザックを小屋の影にデポし御鉢回りに出かける。


夜明けの瞬間、モルゲンロートが射す 御鉢めぐりスタート 伊豆岳をまく。正面は成就岳

御鉢は直径約600m、周回で3km位だ。空荷で時計回りで出発する。雲海から突き出た快晴、弱風の日本最高点の稜線歩きは格別だ。足取快調なためアイゼンの音が小気味よく響く。大日岳〜伊豆岳は鉢の外側を巻く。次の成就岳を越えてコルに下れば浅間大社奥宮である。ここに御殿場口登山道、富士宮口登山道の標識がある。辺りは平坦地が多く積雪期の幕営地としてよさそうだ。三島岳の右肩から馬の背を行けば、いよいよ最高峰の剣ヶ峰(3775.6m)である。急登ひとのぼりで測候所に到着、そこに日本最高地点の標識がある。そこに立つと、日本最高点だものやはり感激する。ここで丁度半周したことになる。

大日岳方面から剣ヶ峰(3775.6m)をのぞむ 剣ヶ峰hの急登


『日本最高峰富士山剣ヶ峰』の標柱。気分も最高!


剣ヶ峰より浅間大社奥宮がある御殿場口、富士宮口方面を望む


剣ヶ峰より火口棚〜白山岳方面を望む。手前ドームは電波望遠鏡だそうです


御鉢の底(大内院:3537m) 白山岳(3756m)、切り立った崖の部分が『釈迦の割石』

記念撮影して出発、白山岳を正面に見てお鉢の淵沿いに行く。途中、雪上訓練しているパーティに会う。富士山頂でトレーニングするには、傾斜が緩やかで比較的平坦部が多いこの辺りしかなさそうだ。白山岳を左に見て一登りで久須志岳、続いてザックのデポ地に帰着した。一周1時間強の満足の雲上散歩であった。

ザック回収し下山にかかる。朝の早い時期だから雪の状態ガよくないと想定される為、スタカット下降とする旨朝確認する。ハーネスをつけ、傾斜のゆるそうな下山口のほうから斜下降する。時刻は9:20

8合目辺りでへりがホーバリングしているのが見える。多分、昨日の事故処理だろう。
事故はどこでも、いつでも起こりうる。集中力を持続できればいいが、それは不可能である。どうしても息抜きは必要だ。問題はそのタイミングだと思う。
後は注意して下るだけだ。8合目でアイゼンをはずし、7合目でデポしていた水筒、ごみを回収、下降を続ける。6合目辺りからガスに覆われてきたが、夏山の冷気のようで雪の照り返しで火照った体に心地いい。

登り気味の遊歩道を最後のひと踏ん張り!山頂を出発して約3時間、12:20に5合目駐車場に到着した。
初めて標高3750mの高所?を踏んだが、予想よりスムーズにこなすことができた。いろんなことを経験したがこれらを将来につないでいきたいと思う。参加者の皆さん、御疲れ様でした。
【Reported by Y.KUBO】
下降の核心部を終え一息つく

★滑落事故報道:
現地新聞は、”
「風」と「氷」が原因? 富士山5人滑落死傷事故”と報じました。23日午前10時から午後1時にかけて5人が滑落、1名死亡の惨事になったとのことです。 捜索にあたった県山岳連盟関係者の話:富士山の風は、強いだけでなく方向が突然変わる。吹き上げられたり横から押されたりするのでバランスを失いやすい、との事。又、この時期の富士山は積雪量が少なく低温と強風のためアイスバーンが堅い。かえって本格的な雪がある冬山より危険だ。・・・・・以上、要旨のみ。
中日新聞:事故発生現場は8合目付近(吉田口道と須走道の合流地点辺り)との事。9合目〜山頂かと思ったがそうではなかったようです。
■溶岩温泉で汗を流し、食事をして帰北の途についた。帰りは、渋滞や雨のため12時間を要した。昼間〜夜にかけての走行になるので時間がかかるのは仕方ないことである。


■走行距離は、往復約2100kmでした。
■帰りの温泉:『溶岩温泉』(溶岩プレートの焼肉レストラン付属)
 スバルラインのゲートを通過、直進すれば河口湖IC(右折)行き標示のある交差点に出る。右折せずそのまま直進すれば僅かで右手にある。
 入湯料:@700円。¥1500で牛ロース定食あり。これは値段の割には大きくなかなかの味でした。
■参加者:原田、新、高木、久保、以上4名
■装備
 個人:アイゼン、ピッケル、ヘルメット、ハーネス、ビナ、シュリンゲ、防寒具、シュラフ、マット、銀マット、食料(2泊3日分)等含む冬山装備一式、サングラス必携
 共同:6人用テント+外張、ザイル:60m×1、スコップ(2)、コッフェル、ガスヘッダー(2)&カートリッジ(4ヶ)等