南ア:甲斐駒ヶ岳〜鋸岳  2003.07.26-28


 当初の目標は、黄連谷右俣遡行〜甲斐駒ヶ岳〜鋸岳であったが、本年は7月の日照不足と低温?で右俣にはいると2つ目の滝から上はまさか!の大量の残雪。残念ながら右俣遡行は中断し黒戸尾根に転進せざるを得なかった。

 甲斐駒ヶ岳〜鋸岳縦走は計画通り実施したが、三角点ピークから横岳峠への下山路は心もとない踏み跡で、休日限定の我々には少し不安を感じたため角兵衛沢経由戸台に変更した。2回も変更し少し消化不良の感が残るが・・・・しかし、からりとした夏空はなかったものの、雨にも遭わず無事故で一応予定の2泊3日で下山できたからよし、とするか。
 満足度は?・・・と聞かれたら、う〜ん、なんと回答しましょう。



黄蓮谷遡行中退

 7/25(金)、19:15北九州出発。休まず走って10時間、7/26(土)5時過ぎで中央道諏訪湖SAに到着。しばらく仮眠した後、八ヶ岳単独の山旅に出かける岡村Mさんを登山口の観音平まで送る。
観音平で全員で朝食をとった後、Mさんを送るというか、置いて明後日の宿泊予定のペンションに向かう。約束の時間より早いがペンションのオーナーに尾白林道ゲートまで送ってもらう。

 ゲート出発は、8:15。40分ほどで日向山登山口、ここまでは時たま落石があるものの荒れの少ない林道である。登山口にある第2のゲートを越えて林道終点まで行く。この間は荒れ放題。林道終点着は、9:15.
10分ほど休憩して尾白川に下降する。急ではあるが、フィックスがあり10分程で難なく河原に出た。

 沢は大きくパッと開けた感じ。さわやかな風と沢音が心地いい。開放感で一杯になりそう・・だが、ふと見ると沢水はエメラルドグリーンのはずなのになぜか?黄色っぽい!
溶解金属イオン?しかし無害で黄色に呈色する金属イオンはない?はず。いやいやそうではなくて黄連谷の『黄』は、水の色に由来している、といった説まで飛び出した・・が、多分、雪解けによる濁りだったと思います。雪が消えれば一昨年竹宇神社近くの河原で水浴びしたあの凍みるような冷水になるはずです。

林道経由で入渓

あれこれ言いながら10:10、遡行を開始する。沢を覆い尽くすような花崗岩の白いスラブが映えて水の色はあまり気にならない。
 ガイドブックは語る・・『夏の黄連谷にはカンツオーネが似合う。高く広い青空へ向かって明るいスラブの渓を登りつめあげていく開放感は、森林の中の流れをたどる旅とは一味違い、捨てがたい喜びを与えてくれるだろう』、と。今日は空の青さと水の深緑が少し足りないが、まさしく遡行者をそのような気分に十分浸す渓相である。

 とは言ったものの、噴水滝の滝壷は、ほんとに気になる不気味なほどの濃いあめ色をたたえていた

入渓地点から二俣まではナメ中心の明るい沢

入渓地点から、尾白本谷と黄蓮谷分岐の二俣まで比較的傾斜はゆるくナメ滝が続く。先が長いのでなるべく濡れないように右や左を思い思いに巻きながら遡る。
12:20、黄蓮谷の出合の二俣到着。標高は1565m位である。大休止して昼食とする。
 20分程休憩の後、黄蓮谷に入る。すぐの15mの滝は右岸にロープがありそれを伝って巻く。ゴーロをたどれば奥のほうに一段と大きな滝がのぞめる。これが千丈の滝である。100mはゆうにありそうである。ここは右岸に立派な巻き道があり、その途中に朽ちてしまいそうな小さな『千丈の滝』の看板がある。

 この巻き道は、竹宇神社からの尾白渓谷道の一部で、それをたどれば五丈の沢右岸の急傾斜の尾根を詰め黒戸尾根5合目小屋の前に出ることができる。


尾白本谷との二俣。手前が黄蓮谷 適当に休み広く明るい谷を楽しむ

中流域の代表?千丈ノ滝。見た目以上に大きい。右岸に巻き道あり。

 千丈の滝を巻き沢に戻る。続いて正面に滝壷を持つ8mの直漠、そこに左から急傾斜で五丈の沢が落ち込む。8m滝は左岸に明瞭な踏み跡があり、一段上がった台地に快適なビバークサイトがある。ほぼ平坦で、沢水も容易にえられる。


8m滝壷(右写真)に左から五丈ノ沢(左写真)が落ち込む。8m滝左岸に快適ビバークサイトあり。

 続いて、巨大で、豪快で、異様な坊主の滝、35mが現れる。数段の逆層の部厚い岩の塊だ。ここは左岸を小さく巻くことになるが木登りが結構厳しい。小さく巻けば落ち口のすぐ近くに出る。坊主の滝上には左から六丈の沢が落ち込んでいる。

巨大で、豪快で、異様な坊主の滝

 坊主の滝を越えると、巨大な雪塊が現れる。もう8月になろうかというのに?
雪塊のある15m滝は右から越える。その向うにはアイスクライミングのメッカである左俣が急傾斜の滝を連続させて落ち込んでいる。ここが右俣と左俣の二俣である。標高はおよそ1900mである。14:45着。

二俣前の15m滝。大きな雪塊が出てきた。奥は左俣 黄蓮谷左俣。急傾斜の滝が連続している

 二俣から右俣に直接はいらず右手の尾根を巻き気味にたどる。適当なところで谷心に降りようと左に行くと・・・なんと谷が真っ白ではないか!雪だ!残雪が谷を埋め尽くし立派な雪渓になっている。どこまで続いているのか・・・上部がガスではっきりしない。

これは全く予想外であった。7月の初めならともかくもう2,3日で8月だ。標高も2000m程度ではないか、と思うが・・・あるものはある、どこまで続いているか不明だ。
黄蓮谷は、この辺からが沢登の醍醐味を味わえるところで、『息つく間もないくらい滝が連続する。滝の数を数えるのもあほらしくなるくらいだ』(資料)

 白馬の雪渓程度なら持参した夏靴で十分いけるだろうが、この傾斜ではピッケルか軽アイゼンでもなければ無理だろう。雪渓を高巻きで越える手もあるが、急傾斜の高巻きならそちらのほうがよほど困難ではあるまいか・・・思案の挙句、遡行は断念し中退することにする。念のため岡村S、原田で偵察に出るが、かなり上部まで雪渓は続いているらしい。

15:20、五丈の沢近くのビバークサイトまで下降開始。いつのまにか雲が厚くなりうす暗くなってきた。途中、懸垂下降を交え急いで下降する。サイト着が16:15.
ツェルト設営、α米が炊けるまで持参したウイスキーと酒で乾杯!軽量化といったって酒はやめられません。17時半すぎると小雨になりそうだったので早々にに引き上げ、早目に就寝。昨夜はあまり寝ていないのでぐっすり休んだ。


巻き道からのぞむ右俣の残雪(雪渓) 8m滝左岸のビバークサイト

黒戸尾根に転進、甲斐駒ケ岳へ

 7/27、4時過ぎ起床、朝食と用足しをして5:50出発。
今日は、甲斐駒ケ岳を越えて6合目石室まで行く予定である。予定行動時間は、実働6-7時間位いだろう。
 五丈の沢右岸を少し登ると、左岸にロープがある。8m滝の高巻き用か?ロープで左岸に渡る。上部に踏んだ跡らしきトレースがあるのでそれを詰める。沢沿いにしばらく行くと連続していた滝が一時途切れるところがある。そこで右岸に渡渉。そこに岩屋がある。これが白稜の岩屋?のようだ。

すぐ横に踏み跡があり、尾根の上方、下方に続いている。これが千丈の滝と5合目小屋をつないでいる踏み跡のようだ。

黒戸尾根へ向かう。五丈の沢右岸にルートあり 途中にある岩小屋 右俣を遠謀。奥千丈の滝は水流が見える

途中、1ヶ所崩壊間際の崖のトラバースでザイルを出したが、急傾斜ではあるが踏み跡は明瞭、テープもあり迷うところはない。途中、右俣が遠望できる。どうやら奥千丈の滝は水流があるようだ。相当難儀することになったかもしれないが、あのまま行ってもよかったかもしれない・・・
7:30、五合目小屋着。無人小屋で老朽化が激しい。大休止して8:10出発、ここから7合目までははしごの連続だ。設置されているはしごは本格的なもので、亜鉛メッキスチール(溝形鋼)に木製の踏み板をボルトで締結している構造だ。木製の踏み板は随時取替え可能な構造になっている。
7合目、七丈の小屋に着く。ここには沢より水をひいてある。冷たい水で喉を潤す。小屋番に会う。少し元気がない。
今年は、広河原方面ががけ崩れで通行不能になり、そのあおりを食って客が少ないらしい。しかも天気が今ひとつすっきりせず、さっぱりだ、とのことである。ついでに沢の話になった。

小屋番の話:今年は曇りや雨が多く沢筋は例年以上に残雪が豊富だ。先日も左俣に入ったパーティも高まきを余儀なくされ、文字通り身も心もボロボロになって降りてきた。二俣から上部は傾斜が強く滝が連続するので樹林帯の高巻きは容易じゃない。皆さんの中退は賢明な選択じゃないかな・・・

そういわれて、中退でよかったんだと自分を納得させたものの・・・五合目に上がるとき遠望した奥千丈の滝の流れがちらつく。あのまま突っ込んで鋸岳をあきらめる選択肢もあった・・・・
見ると引水用の流しの横に缶潰機がある。ビールがあるようだ!計画では、各自ここから今晩/明朝用の水2リットルを荷揚げすることにしていた。今夜予定の6合目石室は、10分ほど下降すれば水場ありとなっていた・・・相談の結果、水は現地調達に賭け、ビールを運ぼう、ということに決定する。しかし、ここはボッカによる荷揚げらしく各自500mL×1が限度、とのこと。まあ、いい、1本で十分だ。

元気出して出発。石の鳥居のある8合目(鳥居は倒壊している)を越え山頂到着が10:45.ここまでくるとさすがに登山者が多い。殆どが北沢峠経由のようだ。時間に余裕があるので、2時間も休憩して、12時過ぎ鋸岳に向けて出発。花崗岩の岩塊を縫いながら行けば1時間足らずで6合目石室に着いた。

石室は屋根と壁はあるものの快適じゃなさそう・・・それで尾根上の平坦地でビバークすることにする。ツェルト設営、すぐ水探しに出かける。幸いというか、石室から信州側に8分も下ると小沢があり、ヒンヤリしたうまい水が得られた。
今日は、時間たっぷり。ビールは500ccしかないが夕方まで焚き火などしてゆっくりすごす。


甲斐駒ヶ岳山頂(2967m) 予想外のビールに歓喜!

鋸岳縦走:第2高点から第1高点(鋸岳)がハイライト!

 4時過ぎると明るくなるので、いやでも目が覚めてしまう。α米は昨晩に炊いてあるので朝は時間がかからない。

 4時過ぎ起床、5:15出発。今日は長丁場になる。鋸岳は信州側は、赤茶けた岩壁が多く、甲州側は樹林が稜線まで迫っている。登路は、部分的に樹林帯を巻いているところもあるが主として尾根筋にtけられている。

 三ツ頭、熊穴沢ノ頭は右の樹林帯を巻く。やがて、正面に一段と高い岩峰(第2高点)が現れる。朝の日差しを受け樹林の緑と赤茶けた岩のコントラストが際だつ。ひと下りで中の川乗越。左方、熊穴沢に向けて下降路がある。

第1高点へのルートは、中央のガレたルンゼに取られている。落石に注意して登ると、草付帯。ここらは小さなお花畑になっており、緊張した気分を和らげてくれる。

三ツ頭〜熊穴沢ノ頭を行く 中の川乗越を隔てて第2高点を仰ぐ

 第2高点には鉄剣がある。ここからが本縦走の核心部だ。ルートは、高点ピークから信州寄りの尾根を下降して、大ギャップにつながる急傾斜のガレたルンゼに降り立つ。大ギャップがはるか右上方に望める。ガレを少し下降、第2高点に対峙している中岳から派生した岩尾根の末端のバンドに上がりこむ。そのままバンドを伝うと、岩のルンゼに出る。このルンゼが鹿窓ルンゼである。これを登り鹿窓をくぐって甲州側に出る。

 鹿窓ルンゼの下部はかなりの傾斜なので、一旦岩のルンゼを渡り向かいの草付に出る。できるだけ草付を登り、上部でルンゼに入り込んだほうが安全だ。
鹿窓をくぐって、岩尾根にあがりしばらくで小ギャップに下降する。次は、第1高点(鋸岳)である。小ギャップからは、3級程度の岩登り(フィックスもある)。さらに岩稜を行けば、鋸岳(2685m)山頂である。

 核心部は、第2高点から鋸岳までであるが、距離は短く特に技術的に困難ではない。但し、落石には十分注意せねばならない。



第2高点登りのお花畑 第2高点から下降したガレから大ギャップをのぞむ 鹿窓。向うが鹿窓ルンゼ

小ギャップから鋸岳へのの登り 鋸岳(第1高点)山頂 角兵衛沢のガレの下降

 鋸岳で記念撮影。今日は長いので先を急ぐ。角兵衛沢のコルに下降し、細かい登下降の後、三角点ピークにいたる。

 ルートから少し外れて設置されている三角点を確認、踏み後に戻り先に歩を進める。ルートは比較的明瞭なので地形図と方角の確認を怠ってしまった。しばらくいくと急に踏み跡はあるが不明瞭になりだした。どうも違う・・・・ここで地形図とコンパスで編笠山方面に入り込んでいたことを確認、。すぐに三角点まで戻り、注意して探したら10mほど手前にそれらしき踏み跡が左手に降りている。

 これだ。よく注意していかないと見落としてしまいそうなだ。よく見るとこのピークまでの踏み跡よりはるかに薄い!この先はあまり踏まれていないようである。ここからは樹林帯である。時間に余裕がないので、下降で道に迷ったらアウトだ・・・時刻は10時40分である。コースタイム通り歩かねばペンションには帰れない。

 又もや思案のしどころだ。結局、安全優先で、角兵衛沢〜戸台経由で下山することにする。下山方向は甲州側とは反対の信州側なのでペンションに帰るには大回りしなければいけないが、こちらは確実な下山路である。

 角兵衛沢のコルまで戻り、11:00下降開始。上部はサイズの大きい岩の急傾斜のガレで崩れやすく、踏み跡も判然としない。ともかくそれらしき所を下降する。1時間ほどで大岩下の岩小屋に着く。岩壁の基部に岩小屋があり奥からみすが染み出ている。そこから樹林帯である。踏み跡はかなり明瞭なのでまっすぐどんどん下る。さらに1.5時間ほどで戸台川の河原に出た。

 対岸の岩に登山道を示す赤ペンキが見える。戸台川を渡渉する。北沢峠に至る昔のメインルートだ。でも誰も歩いていない。声すら聞こえない。

 先行して降りた岡村、原田と合流、戸台の売店のビールを思い浮かべながらひたひた河原歩きだ。以前の記憶がはっきりしないがいやに荒れている。堰堤やダムも建設され昔とは様変わりしている。
 それにしても誰もいない。ゲートにある一般用駐車場はだだっ広いが1台しか駐車していない。ゲートの先にあった二軒の売店も跡形もなく消失している。

 南アルプス林道ゲート着が、15:45。のどが渇いた・・・見渡すが自動販売機すらも置いていない。

 結局、戸台の河原に下りてから、北沢峠行きの南アルプス林道入り口ゲートまで登山者には会わなかった。
 いやいや、考えてみたら今日出発した6合目のビバーク地点から鋸岳を越えこの林道ゲートまで、全く登山者には会わなかったねえ。山も一極集中?ですかね。

 ゲートの管理人に電話してもらいタクシーを呼ぶ。車が来る間、何台も小型バスが登山者を乗せて通り過ぎる。そうか、もう戸台から河原歩きして北沢峠にはいる登山者はいなくなったんだ・・・・と実感した。
 多分、南アルプス林道が総てを変えてしまったんでしょう。(報告:Y。Kubo)



今回の宿泊


★ペンション アルペングローさんにお世話になりました。
 甲斐駒ケ岳山麓の白州にあります。林間に立てられた小綺麗なハウス。
 
★ダイニングには、御主人の手による甲斐駒ケ岳のペインティングが飾られています。
 本棚は山の本で一杯です。
 甲州に行かれる時はお勧めです。

★山梨県北巨摩郡白州町白須794 
 TEL:0551-35-3510

 
E-mail: pension@alpenglow.jp URL: http://alpenglow.jp/

■参加者:原田、岡村S、赤澤、久保、以上4名+岡村M(八ヶ岳縦走)

■主要装備:ツェルト×2、ザイル(30m×1、40m×1)、ハンマー&ハーケン類一式、各人沢装備一式、縦走用夏靴、食料はα米+ふりかけ、味噌汁、等。
シュラフは500-600grの軽量。1名はシュラフカバー。マットは持参。ガスカートリッジは4名で3ヶ。軽量化したつもりであるが2泊3日分でザック重量は、各人平均12-13kg

■走行距離と走行時間:片道915km。往路は夜間のため10時間、復路は昼間で30分の工事渋滞を含み11時間。ガソリン往復で約200L。高速料金(門司港〜富士見):18000円×2